美食の特等席 vol.6

味わうのはお料理だけ?

パリのエスプリも、同伴者との会話も、バットンさんの人柄も、味わいましょう!

〇〇ダミーダミー
●店内飲食/11:00~18:00(L.O.17:30)●物 販/11:00~18:00
福岡市中央区白金1丁目5番5号 TEL:092-406-8087

まるでパリの街角に迷い込んだようなお店

編集部が向かったのは、日本有数のオフィス街・虎ノ門。その高層ビルが立ち並ぶ一角、緑の間から現れる赤いテントとガーデンパラソル…。そうです、今回ご紹介するフィリップ・バットンさんのお店「ル・プティ・トノー」です。うかがったのは7月初旬、まさに新緑の季節。入口のドアや壁面も赤色で統一されているお店は、森の中にある小さなお家のよう。アットホームに編集部を迎えてくれました。初めて訪ねたのに懐かしさがあ

り、パリのビストロはこんな感じなのだろう…と思いながらお店に入りました。

16歳で料理の世界へ24歳で料理長に!

こちらのオーナー・シェフがフィリップ・バットンさんです。ある料理対決番組でフレンチの達人的な日本人シェフに勝利しており、メディアへの出演も多数。もちろん、著書も出版されているフレンチの巨匠です。

 生まれはフランのパリ郊外。16歳で料理の世界へ飛び込んだとのこと。幸運にもパリの4つ星ホテルの料理長の下で働くことができたそうです。

 この料理人人生の第一歩目がバットンさんの未来を強く確かなものにしたのでしょうね。

 その後、フィリップ・グルー氏のレストランに勤務。グルー氏のすすめにより日本のレストランの料理長に。フランスに戻って、後にミシュランガイド2つ星になるレストランの料理長をされたそうです。ちなみに日本のレストランで料理長をされていたのは24歳の頃! 若き天才シェフだったのです。

再来日を果たすと日本の美食家をとりこに

日本への思いが断ち切れなかったバットンさんは1990年に再来日。ホテルやレストランで腕を振るわれたそうです。 

すると評判を聞きつけ、料理対決番組へ出演することになりました。勝利後もともとの人気に話題性が加わり、さらに多くの美食家を魅了することに。働いていたお店を東京の超人気店へと成長させた後、2001年にビストロ「ル・プティ・トノー」をオーナーシェフとして開店されました。現在、全日本フランス人シェフの会会長をされるなど、業界でも一目置かれる存在。2023年で来日33年、フランスより日本の方が長くなったそうです。

高級レストランからビストロへの転身

どうして高級レストランからビストロへとスタイルを変更されたのかうかがうと「レストランでは多くのゲストは緊張して、静かにお行儀よくお食事をされていました」と困った表情に。「もっと気楽に、少しくらい大きな声で話をしてもかまわないお店。ひと皿をシェアしながら、みんなで楽しく美味しく時間を過ごせるスタイルをつくりたかったのです」とのことでした。この思いを実現するために開店したのがパリのビストロだったそうです。ちなみにこのカジュアルにフレンチを楽しむスタイルは東京のお客さまにとても喜ばれ流行。日本のビストロのパイオニアという称号もバットンさんに加わりました。

このお店は200%、フランスのビストロです

「ル・プティ・トノー」を開店するにあたり、心がけたことがもう一つあります。それがフランスにあるビストロであること。スタッフもフランスの方が多く「200%フランスのスタイル」なのだとか。「フランスのディナーではすぐに注文は取りません。お客さまも30分ほどお連れさまと話をしながら注文を取りに来るのを待ちます」。なるほど、すぐに手を上げてビールちょうだい! なんて注文するのは日本スタイルなんですね。

 「コースを注文されると食べ終わるのは2~3時間後、という感じです」と話され「このお店はフランスのビストロですから、ゆっくりゆったり時間が流れています」と続けられます。いろんな会話をしながら過ごす時間こそが豊かさであり、お料理やお酒はそれをサポートするものなのかもしれません。心にパスポートを持って訪れるべき、ビストロのようです。ちなみにランチは素早く対応されますのでご安心ください。

パリのビストロで定番の料理といえばこちら!

お待ちかね! おすすめ料理の登場です。まずは「マグロと帆立のタルタルフランコジャポネスタイル」が運ばれてきました。パリのビストロといえば肉のタルタルなのだそうです。フランスにも生食文化があるのだと思いながら話をうかがいました。それをマグロと帆立に変えたのがこちらです。マスタードの代わりにわさびを、酸味に梅干しを使っています。「でも、これはフランス料理ですよ」とバットンさん。割烹などでフォアグラ大根が流行ったことがありますが、確かにそれは和食でした。各食文化の精神や技や知識を土台に作られれば、食材はどうあれ、その国のお料理になるのだと思いました。さてお味の方はというと、生食が本来持っている力強さと濃厚な旨味を香味や香辛料が引き出しています。ワインも進みそうです。

バットンさんの創作の出発点は家庭の味

スペシャリテはバットンさんが30年以上つくり続ける「とろける牛ほほ肉の赤ワイン煮 ハチミツとクミン風味のニンジンソテー添え」です。バットンさんのお母さんもつくってくれたフランスの家庭の味だと話されます。ほほ肉の筋にはコラーゲンが含まれており、ゆっくり柔らかくなるまで煮ると美味しくなるそうです。またつけ合わせのニンジンはおばあちゃんの味だとか。ニンジンを美味しくするポイントはクミンで「ニンジンの持つ美味しさを引き出す」と説明されます。食べてみると編集部の家のほほ肉煮はパサパサと思えるほどなめらかで優しい美味しさがとろりと口に広がります。ニンジンも「これからクミンを入れてソテーしよう」と思うほど、ニンジンの旨味を引き出していました。

まだまだ、もっと美味しくしたい!

バットンさんは30年以上も牛ほほ肉の赤ワイン煮をつくられていますが、毎回「美味しくつくりたい」と思っていると話されます。さらに料理の世界に入って40年以上経ちますが、「全ての力を使って、心を込めてお客さまに美味しい料理を提供しよう」と努力されているそうです。

「あきらめませんよ。まだまだ、もっと美味しくしたいんです」と16歳の頃と変わらないであろう笑顔で取材を締めくくられました。

 生き方までイケオジ(イケてるおじさん)! いえいえ素敵な方だと思いながら「ル・プティ・トノー」というパリのビストロから出国しました。

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