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生体リズムを整える
教えてくれたのは…
眠りと咳のクリニック虎ノ門 院長
柳原 万里子さん
医学博士。日本睡眠学会睡眠専門医・指導医。
日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。2022年11月に「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院。女性ならではの丁寧な視点で多岐にわたる睡眠障害の診療と臨床研究、啓蒙活動を行う。東京医科大学睡眠学講座客員講師。公益財団法人神経研究所睡眠研究室客員研究員
https://sleep-toranomon.com/
生体リズムを整えてより快適・健康に!
人間や動物、植物などの生物に本来備わっている周期的変化を「生体リズム」といいます。例えば、概ね24時間周期で睡眠・覚醒する、約28日周期で月経が起こる、といった一定の周期性のことをいいます。周期の長短はさまざまですが、ふだん特別意識をしていなくても、生命活動は一定の周期性をもって維持されています。
生体リズムは健康を保つ上で重要な役割を果たしていますが、意識をしづらいもの。ここで改めて大切さを見直しましょう。
一日のリズムは体内時計がつくる
私たちの1日、つまり睡眠・覚醒に着目して「生体リズム」を考えてみましょう。
地球の1日の長さは自転に伴い24時間周期です。私たちの体の1日の長さは地球よりも少し長く、個人差はありますが24時間半前後の周期と言われています。このヒトの1日の長さの周期を「概日リズム」もしくは「体内時計」と呼びます。
私たちは24時間より少し長い体内時計を地球の24時間周期に合わせて毎日リセットをしながら生活をしています。
実は一つじゃない!全身にある体内時計
体内時計の本部は、目の奥辺りにある脳の視交叉上核にあります。これはメインの司令塔。言わば体内時計の親分(親時計)です。
なんと体内時計は胃や腸、筋肉など全身のさまざまな臓器にも備わっていて、体内時計の支部もしくは子分(子時計)として働いています。本部である視交叉上核の親時計を標準時計として、支部の子時計は在籍するそれぞれの臓器、ひいては全身の統一された周期性のある生命活動を維持しています。
体内時計の調整に重要な存在「光」
朝が来て目から入った光の刺激が網膜の神経を介して脳へ伝わると、松果体からの睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が減少します。すると、視交叉上核の親時計が反応して、全身の子時計に覚醒の合図を送ります。
一方夜になり陽が落ちて暗くなると、松果体からの「メラトニン」の分泌が増加します。それに反応した親時計が、全身の各器官の子時計に眠る準備を始めるよう合図を送ります。
いつの間にかズレる!?現代人の体内時計
原始的な生活では、地球の自転の24時間周期に合わせて朝陽と共に起きて活動し、陽が暮れて暗くなると外敵に襲われない安全な場所で身を潜めて眠るしかありませんでした。体内時計を地球の24時間周期に合わせるリセットも自然に行えたことでしょう。
しかし現代では、都市部は屋外でも夜も明るく、さらにシフト勤務や24時間営業も増えました。深夜でも電子機器類を用い不自由なく活動できます。
深夜に目にした強い光は松果体からの睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を抑制するため、体内時計を遅寝遅起きにズラしてしまう効果が。現代の環境は体内時計にとっては危機的な状況と言えるでしょう。
体内時計こぼれ話
光を浴びないと…
光の刺激によりスイッチが切り替わる体内時計。もし日光が届かない場所で時間を知らせないままずっと過ごすと、どうなる!?答えは「自分の体内時計に合ったタイミングで、寝たり起きたりするようになる」です。24時間半周期の体内時計を持つ人は、毎日30分ずつ地球の時計からズレていく生活になるそう。
全時計は連動している
体内時計の親時計は光でリセットされます。子時計は親時計の指令以外に、各臓器の活動、たとえば食事や運動がリセットのスイッチになります。さらに、例えば朝食を摂ると、胃の子時計から親時計に「朝みたいですよ」と連絡が入り、親時計の調整がサポートされることも。
放っておくと怖い体内時計の乱れ
もし睡眠・覚醒の体内時計が一般的なタイミングからズレていても、そのまま社会活動ができていれば、健康上の問題はありません。
無理をして自分の体内時計に合わない時刻に寝起きしようとすると「時差ボケ」に似た症状(倦怠感・頭痛・食欲不振・不眠・起床困難・立ちくらみ・抑うつ気分など)が生じます。
社会生活に支障をきたすようであれば睡眠外来を受診しましょう。
知っておきたい体内時計の整え方
最後に、体内時計を整えるために重要な3つのポイントをお伝えします。次ページでご紹介する理想的な一日の過ごし方も参考にしながら、健やかな毎日をお過ごしください!